バッハの音楽のアーティキュレーション

 アーティキュレーションとは、ひとまとまりの文章(フレーズ)の中で言葉をどのように区切るかということで、音楽においては音符の切り具合/つなげ具合を言います。バッハの音楽におけるアーティキュレーションは、ある程度規則的なものがあるので、その代表的なものをご紹介します。

拍子によるもの
[譜例1] 4/4拍子の場合:「マタイ受難曲」第20曲第73小節からのベース・パート

[譜例2] 8/12拍子の場合:同じく「マタイ受難曲」第1曲第23小節からのベース・パート

テヌート記号(-)が付いている音符は各々強拍もしくは中強拍となりますが、バロック音楽ではこれを長め(場合によってはテンポをも多少崩すほど)に演奏するのが、現在の古楽器系の演奏団体の通例です。この方式は不均等音価と呼ばれ、1960年代に古楽器奏法復興の先駆者グスタフ・レオンハルトが、チェンバロ音楽にて実践したことで有名です。


音程の跳躍によるもの
 基本的に音程が4度以上飛ぶ場合は区切りを入れます(ブレスほどの間は空けません)。上記[譜例1] [譜例2]では、歌詞の部分に ' が付いているところが音程が4度以上跳躍しており、ここで区切ります。


音符長によるもの
 4/4(2/2)拍子における8(4)分音符が音楽の拍子の刻みを司る([譜例1] [譜例2])のに対して、4(2)分音符以上の長いものは音符の中で歌う要素が増します。つまり1音の中で最初はやや弱く始まり、後半に向かってふくらむ感じとなります。
[譜例3] 2/2拍子での2分音符:「ミサ曲ロ短調」第3曲第27小節からのベース・パート

 

第4拍からの"e-le-i-son"の2分音符の半音階上昇が本例に相当します。もう少しこちら寄りの時代の音楽ならばベタッとレガートで歌うところです。


長い音の終わり際
 三澤先生は「タイでつながれた最後の音は短くする」という風に説明されていますが、もっと一般的には長い音符が終わって細かな動きに入る前の処理、と言うことができます。いくつかの例外を元に考えると、音節や単語の変わり目に応じて、以下のような一般則となります。
[譜例4] Amenという単語を用いた自作例

①長い音符の次で同一単語内で音節が変わる場合は切らない。
②長い音符の次で音節が変わらない場合は切る。
③長い音符の次で単語が変わる場合は切る。


象徴音型
[譜例5] 泣きの象徴音型:「マタイ受難曲」第25曲第11小節からのテナー・パート

第11小節が本例です。このような音程の変わり方の場合は、例えスラー・マークが無くても、音程が変わる2音づつをつなげて演奏します。
[譜例6] 喜びの象徴音型:「ヨハネ受難曲」第21曲第40小節からのベース・パート第4拍からの8分音符1つと16分音符2つからなる音型が本例です。

このような場合、8分音符は16分音符+16分休符であるかのように演奏します

 


2004.10.23 Copyright © 萩野