その07:発声練習を考える

送信日時 : 2004年 7月 27日 火曜日 22:38

浜松バッハ研究会のみなさま

暑い日が続きますね。先日の25日はお疲れ様でした。クリエートのふれあい広場はいかがでしたか? 結構良かったというご感想をいただいております。天井が高くて響きが良かったように思います。ギャラリーもいて適度な緊張感も備わり、歌う側には人前で歌う良い経験になったでしょう。何気なくフラッとクリエートに立寄った人がバッハの合唱を耳にする、ということが私にはとても嬉しく思えました。ほらドイツで教会に入ったらバッハの合唱が聴こえてきた......ってことは日常的によくあることなのでしょうけれど、浜松で似たような(似ていないかな?)ことが起こるってすごくないですか?

さて今回は「発声練習を考える」ということを書いてみます。すでに発声練習の大切さということについては以前に触れていますが、みなさんは発声練習の時にどんなことをかんがえていらっしゃいますか?発声練習はそもそも何のためにするのでしょうか? 例えば、練習の前に声を出しやすくするため、ということがすぐにでも挙げられそうです。しかし少なくとも「発声を変えよう」と意識している人はそれだけではないでしょう。発声練習なのですから。「発声を変えよう」と思っている人は発声練習が主といってもいいくらいです....よね。

合唱の前に発声練習はするものだと思って惰性でしていたこともあります。高い音になるとのどをつめてアヒルが首をつったような声を出していました。「今日はこの音まで出た。」「この音まで出すと苦しい」など、それだけで思考は止まっていたように思います。

今はもちろん違いますよ。発声練習で「響きを広げる」ということを第一に考えています。発声練習を指導する人によってどんなパターンを練習するかは異なりますね。例えば2回ほど続けて練習した萩野氏のドレミファソファミレドの五度の音に「ほはほひほふほへほ」という言葉をつけて歌う練習。萩野氏も話しておられましたがこれは母音をつなげて歌うのによい練習だと思います。

また例えば 1 ドミレファミソファラソをマで歌ったり
逆に    2 ソミファレミドレシドをマで歌ったり
他にも   3 ドレミファソファミレドレミファソファミレドをマで歌ったり
      4 各声部で音を変えて和音で歌ったり.........
いろいろありますよね。

今回「考えて」いただきたいのは、こういった一つ一つの発声練習のパターンそれぞれに「目的」があるはずだということです。前出の萩野氏のホハホヒ.....では「母音をつなげる」でしたね。他はどうでしょう。
1ではレガートでつなげて6度高い音まで歌う
2ではその逆でなめらかに上から低い音におりてくる 
3では少し早めのテンポでメリスマ風になめらかに音程を上下させる
4は各声部のハーモニーをそろえて聴きあう

何も書かずともそのまんまのことなのですが、それではその「目的のために」どうすればよいのでしょうか。ホハホヒホフホヘホのときにせっかく母音をつなげる練習をするのですから習いたての子供がドレミファソファミレドとピアノを弾くように或はあたかも首を縦に振りながら歌うように、歌ってしまっては何にもならないのです。ドからドまで音を充実しながら歌いましょう。響きをつなげて歌うようにイメージしてみましょう。言葉が変わる時は子音のために口先は変わりますが口の中はほとんど変えないで(多少母音によって変わります)歌うつもりで、のどは開いたままと思って下さい。言葉が変わる時に閉じないで広げたまま歌う。これを考えるとちょっと8分音符で歌うのは早すぎて難しいかもしれませんから、自分のできる早さにテンポをおとしたらよいでしょう。

1ではどうでしょう。レガートでつなげる、ということと音程が低い方から高くなる、ということがポイントです。さきほどのホハホヒ......でも音程差はありましたね。レガートでつなげることについてはホハホヒホフホヘホと同じです。音程が高くなるという時にどういうことを考えなければいけないのかというと、以前触れたことがありますが、一番高い音が十分に歌える高さを保ったところから歌い出すということだと思います。頭のドームのことです。先生からよく言われるのは「高い音の3度高い音を歌うつもりで広げておいて、そのままの状態で低い音から出る」ということです。なんとなくどういうことかおわかりいただけますでしょうか? こうして注意して出ると低音からなめらかに高音まで歌うことができます。これをしないと高い音にいってのどを閉めてしまったり、下からズリ上げたようなぶら下がった音になってしまいます。

2では1の逆なのですが、ただ逆だと思ったらいけません。高い音から出る時はもちろん広げておくことが大前提ですが、下がってくる時が問題なのです。どのように問題なのか? これも以前書いているはずですが、高い時に歌ったその響きを保って低い音におりるのが、無意識でいると不可能といったら言い過ぎでしょうが、かなり難しいのです。音程が下降する時とは限りませんが「響きが落っこちてくる」とよく早川が言っていますが、まさにそれです。音もぶら下がるし、音が太くなり易くなります。自分の響きをよく聴いて響きの場所を保つことを念頭に練習すると良いでしょう。

3ではレガートと音程の高低と支えがポイントになります。レガートと音程の高低は1や2と同じです。支えというのはもちろん他の1や2でも欲しいのですが、さらに意識しないと音が転んでしまいます。腰の辺りの支えと横隔膜をしっかり張って、これについては「お盆の上のお豆をコロコロ転がすような感じ」と先生がおっしゃったことがあります。横隔膜がお盆なのでしょうか。私自身もなかなかきれいに歌うのは難しく、いまだに転ぶことも多く支えが足りないといつも実感しています。

4についてはハーモニーですから、よーく耳を開いて響きを感じましょう。1度、5度、3度、ときれいに和音に入って響かせたいですね。フォームを作ったら鼻から息をすって一旦止めましょう。止めるというのはきれいに入るために必要なことだと思います。押し付けずに響きを広げるイメージを持って音程だけでなく、自分の出している音が丸い立体感のある音になって飛んでいくか、というこを感じてみましょう。のど声のベチャ、という扁平な音はさよならしましょう。

たったの5つ例をあげてみただけですが、目的にそった練習の仕方があるはずで、発声練習においては、練習する人の心掛け次第で有意義になったり、無意味あるいは無駄となり得るのです。なんとなくマンネリ化して音を出すだけでは何も進歩しません。自分の目指す音がどんな音なのか、問題意識をもって発声練習に臨めば、発声練習は楽しく価値あるものとなります。「これでよし」と思ってしまったらそこから先にどう進歩するのでしょうか。「歌においては死ぬまで学生です」というマリアカラスの言葉にみなさんの心も揺さぶられませんか?

それぞれのパターンにどんな目的があるのかを把握しそのためにどうしたらよいのか考えてみましょう。私自身、こういったことは誰かから説明を受けたりしたわけではありません。経験から考えているだけです。発声を学ぶことは響きを探すことなんだ、と感じたことがあります。みなさんはいかがでしょうか。奥深くて楽しいですね。さあ共によりよい響きを探し求めましょう。

クリエートのふれあい広場、一番最初にコラールを歌いましたね。ソプラノだけでコラールを歌うことがありました。私は一生懸命一つ一つの音を充実させて、ワンフレーズが一つの響きとなるように心掛けました。へたくそだったかもしれませんが、それこそ気力でつなげたつもりです。あの場にいたどなたかお一人に伝わっていたら嬉しいです。

おまけ
1、2、3、の練習で半音ずつ音程を上げるときに、母音を変えてやってみると何が見えてくるでしょうか? お試し下さい。苦手な母音が見えてきます。どの母音もおなじ響きで歌えるように、こうして苦手な母音を把握して、どうしたら他の母音のように歌えるのか考えてみましょう。